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by whosanf

熊本県八代市坂本村「荒瀬ダム」

平成27年4月27日。


球磨川本流には、3か所のダムがある。

河口側から、荒瀬ダム(1955年完成)、瀬戸石ダム(同1958年)、

市房ダム(同1959年)で、1950年代後半の数年間に

集中的に建設が進み、これらのダムによって球磨川の環境は大きく変わった。



ダムは河口がある八代海の生態系にも影響を与え、

藻場や砂干潟が減少し、漁獲量も漁業者の数も減少。

ダムの影響から解放されたいという住民の思いは、水利権更新期限が近づくと、

ダム撤去運動という形で表面化する。

2002年6月9日、旧坂本村川漁師組合が『荒瀬ダムを考える会』の発足を呼びかけ、

ダム撤去を求める運動が本格化した。

撤去運動には多くの団体が加わって影響力を強め、9月20日、

村議会でダム撤去を求める意見書が可決されるに至り、

村議会はダム撤去を求める請願を熊本県に提出した。

熊本県は2003年6月、河川環境に配慮したダム撤去対策等を検討するため

『荒瀬ダム対策検討委員会』および『ダム撤去工法専門部会』を設置。

委員会や専門部会での検討結果を受け、2006年3月に『荒瀬ダム撤去方針』が策定され、

撤去計画の検討が進められていた。

ところが、蒲島県知事は2008年6月、

これまでの撤去方針を凍結して再検討することを表明。

撤去費用が大幅に増加することが明らかになるなど、状況の変化があったためだ。

同年11月「荒瀬ダムの発電事業を未来永劫続けることが最善の選択ではなく、

撤去可能な条件が整えば撤去すべきである」との考えを前提としながらも、

「深刻な財政危機にある県の現状を考えると荒瀬ダムを存続

させることが適当である」との判断を下した。


ダム撤去の日を待ちわびている住民にとっては、衝撃的な出来事だった。

住民たちは、あきらめずに撤去凍結への反対運動を続けた。

そして、2010年3月まで更新した水利権について「再更新はできず、

発電を存続させるためには新たに水利権を申請する必要がある」との判断が、

国土交通省から示された。

熊本県は2010年2月「現時点では、もはやダム存続を目指すこと自体が、

地域の混乱の長期化を招き、適切な選択ではない」として、

ダム撤去を再び表明した。

ダムの影響に苦しみ、撤去に向けた運動を続けてきた住民たちの、

長年の苦労が報われた。



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撤去の工期は2012年4月から2018年3月までの6年間が予定され、

環境の経過観察については、撤去工事前後それぞれ2年間を含め、

10年間継続して行われる。

ダム撤去が決まって以降、定期的にゲートを全開していたこともあり、

水利権消失後の2010年4月に本格的なゲート全開が行われると、

川はダム建設前の姿に近づき、水質も向上。

同年8月頃には、付近の住民が「8割方、以前の河原に戻った」

と話すほどの状態になっている。



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荒瀬ダムの上流10㎞には瀬戸石ダムがあり、現在も発電用ダムとして運用

されているため、荒瀬ダムの撤去が球磨川と八代海にもたらす効果は、

限定的にとどまっている。

2か所のダムがなくなった場合、球磨川は、上流の宮崎県境付近に

ある市房ダムに至るまで、大型ダムのない一級河川となり、

川と海の生態系と生物資源のめざましい回復が期待できる。

その瀬戸石ダムの水利権も、2014年に50年の期限が切れる。

瀬戸石ダムにおいても、地元漁協が、水利権の更新を認めず、

撤去を目指すという決議をあげており、これを契機に、

撤去される可能性がないわけではない。

しかし、瀬戸石ダムは、芦北町と球磨村のはずれにあるため、

旧坂本村のように、直接ダムの被害を受ける村がなく、また下流で捕獲したアユの

70%を瀬戸石ダムの上流で放流することで、アユの漁獲量も保たれてきた。

このため、荒瀬ダムでみられたような、住民が積極的に撤去を求める運動は、

瀬戸石ダムに関しては起きていない。

とはいえ、これまで瀬戸石ダムの放水時には、

荒瀬ダムが補助ダム的な役割を果たし、

荒瀬ダムが水量の調整を担い、また、アユ放流事業の費用も

、瀬戸石ダムは負担してこなかった。

つまり、瀬戸石ダムの運転は、荒瀬ダムに依存してきた面があり、荒瀬ダムが

撤去となることで、瀬戸石ダムの運用は見直しを迫られることになる

荒瀬ダムの撤去は、ダムがひしめく日本の河川で、

今後どうやって自然を回復していくのかを考えるうえで、

たいへん重要な事例である。大型発電ダムの撤去は、

日本のみならず、アジアでもはじめてのケースで、ダム撤去によって、

自然がどのように回復していくのか、回復を促進する要件はなにか、

といった問題を考えるために、撤去工事開始前から継続的な経過観察

が必要であった。

しかしながら、荒瀬ダムは熊本県の所有で、国が関与していないためか、

全国的には荒瀬ダム撤去への関心は非常に低く、専門家による多面的な経過観察

調査も行われていない。


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by whosanf | 2015-05-20 10:00 | 風景写真 | Comments(0)